神話変奏

日常に疲れた古典好き社会人が神話伝説をゆるく再話してみるブログです♪

雷を捕らえた男のはなし

 

日本霊異記(上) 全訳注 (講談社学術文庫)

日本霊異記(上) 全訳注 (講談社学術文庫)

  • 作者:中田 祝夫
  • 発売日: 1978/12/08
  • メディア: 文庫
 

 

【 電を捉へし縁 】#日本霊異記

むかし雄略天皇の護衛官に、少子部栖軽(ちいさこべの すがる)という男がいた。


ある嵐の夜、天皇の寝室に立ち入った栖軽は、そこで夫婦の営みを目撃してしまった。
行為を中断された天皇は怒り、彼を寝室から追い出すついでに嫌がらせのつもりで無理難題を命じた。


「栖軽、今まさに雷光を閃かせた、あの雷神をここへ呼んでみせろ」「御意!」


真面目な栖軽は、魔除けの赤い髪飾りと赤い鉾を装備して馬を駆り、街に着くなり大声で叫んだ。


「おい雷神!!!天皇がお呼びだぞ!!!」


さらに来た方向へ走りながら叫んだ。
「おい!!!お前雷神だからって調子に乗ってんのか!?まさか天皇の命令を無視するつもりじゃないだろうな!?!?」


そうして帰ってみると、なんと豊浦寺と飯岡の間に雷が落ちていた。栖軽はすぐに神官を呼び、拾った雷を輿に乗せて内裏に入った。


「主の仰せのままに、雷神をお招きいたしました」
「ウッソだろお前!?元の場所に返してこい!!」


目の前で激しくスパークする雷神の様子に、恐れをなした天皇は速攻で沢山の供物を用意し、礼を欠くことのないよう冷や汗をかきながら元の場所に返させた。
そこは今でも「雷岡(いかずちのおか)」と呼ばれている。


……話はここで終わらない。


そんな栖軽が死んだときのこと、天皇は彼の栄誉を称えるため、件の雷岡に墓を建てさせて「雷を捕らえた男の墓」と銘打った。
雷神はこの仕打ちを恨み、雷鳴を轟かせながら彼の墓を踏みつけ、怒りに任せて強く蹴りあげた。
するとどうしたわけかその壊した亀裂に足を挟まれて、すっかり身動きが取れなくなってしまった。
それを知った天皇は爆笑しながら大人しくなった雷神を助けてやり、墓荒らしについても無罪放免とした。
しかし雷神は神としてのプライドをズタズタにされたショックで放心状態となり、一週間ほどあたりを彷徨った。


そんなことがあったので、栖軽の墓は「"死後もなお"雷を捕らえた男の墓」へとパワーアップして同じ場所に再建されたのである。


奈良時代に成立した日本最古の説話集『日本霊異記』。「説話集」ってことは、偉いお坊さんのありがたいお話ばっかりなんだろうなぁ…と思いきや、一話目に収録されているのは上司の濡れ場を目撃してしまったエリート国家公務員のツッコミどころ満載な武勇伝です!

 少子部栖軽はいわゆる"堅物天然真面目キャラ"であったようで、『日本書紀』にも「養蚕業を任せたはずの栖軽が蚕(コ)と子を勘違いして沢山の幼児を養いはじめたというので天皇が大ウケして少子部の姓を与えた」という、彼の奇跡的な天然ボケが日本の歴史として大真面目に語られています。なので「雷の話」でいきなり天皇の寝室に入っていったのもきっと、彼なりに護衛としての務めを果たすつもりだったのかなと思います。現代にも、真面目なんだけど周囲とちょっとズレていて、よくみんなを振り回すんだけどどうにも憎めない人っていますよね。予想のできない行動に身近な親しみやすさも加わって、とても魅力ある人物になっていると感じました。


あとあんまり関係ないかもですが、「スガル」っていうのが「蜜蜂」の古名でもあるらしく、彼の名前に一体どんな願いが込められているのか、少し気になる私です。

 

と、こんな感じで不定期に更新していけたらいいなと思っています。以後よろしくお願いします😊